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『夜間飛行』/サン=デグジュペリ あらすじ・感想

      「命がけの夜間飛行。それがもたらすものとは……。」

 

こんにちは。今回はサン=デグジュペリの『夜間飛行』(光文社古典新訳文庫)を紹介します。

本作は、飛行家としての作者の経験を基に、命がけの飛行に臨む者たちをリアリティを持って描いた作品です。1931年にフランスで刊行されました。

 

 

作品情報

・作者  サン=デグジュペリ

     (他作品『星の王子様』『南方郵便機』)

・訳者  二木麻里(ふたき まり)

     (他訳書『死を生きながら - イスラエル1993-2003』(グロスマン)

・出版社 光文社

 

4行あらすじ

「生はあまりに矛盾に満ちている。」

南米大陸で行われている夜間郵便飛行。

ある夜、その中の一機が飛行中、暴風雨に襲われる。

命を賭して飛行するパイロットと、地上から指令を行う社長。

夜間の空を舞台に、任務にあたる者の苦悩や、静かなる情熱が込められた一冊。

 

感想(ネタバレなし)

航空隊、民間航空業界の経験を持つ作者だからこそ描ける、夜間飛行がそこにはありました。パイロットだけが独占できる夜の美しさ、夜空で一人で飛ぶことの孤独感……。(実際には通信士も同乗していますが、それでも孤独が紛れないことが伝わります)
それらが、抒情的な文で綴られ、パイロットの感性がそのまま再現されているようでした。

 

また、地上にいる社長(リヴィエール)の内面も精緻に描き出されていました。その人物像こそ冷徹なものですが、心のうちに抱えるものは、それとは大きく異なっています。彼が抱える煩悶もひしひしと伝わってきました。

 

また、この文庫には、ジッドが書いた序文と、本文の構造をまとめた解説が添えられていました。そちらを読むことで、作品自体への見方がより深まったように思いました。

 

 

つぶやき事 ~社長の宿命~

↓ 以下、本文に関わります。

初めて読んだとき、パイロットとしての目をもつファビアンと、その苦悩を知らず、規則を重んじるリヴィエールという対比を想定していました。この話は、現場の目に価値を見出しつつ、リヴィエールを暗に非難する形で締めくくられるのではないかと。
しかし、そうはならなかった。そこに私は本作の面白さを感じました。

 

感想でも書きましたが、リヴィエールの人物像(というより、他者に対する対応)は冷徹なものです。しかし、本文の端々に、リヴィエールが人の情緒、愛を深く理解している描写が見られます。それは、本作で最もヒューマニズムに満ちているのではと感じるほどです。

 

思えば、パイロットと社長は、共に任務という個人を超えた存在に立たされていあます。そして、任務の過程で、パイロットは孤独な飛行を味わい、社長は孤独な葛藤を抱え続けます。同じ孤独ですが、リヴィエールの方がはるかにつらいでしょう。共有する人がいないのですから。

 

しかし、任務の前にはその苦しみなど、一切意味を持ちません。人ができるのは、ただ歩むことだけです。暴風雨による事故が明らかにしたのは、そのような宿命的な人生なのではないでしょうか。

 

今回はここまで 。

読んでいただきありがとうございました。